住宅改修プロ実務ノート
住宅改修が必要な理由書は、何をどう書けば通るのか
審査で見られているのは、工事ではなく動作
理由書は工事の説明書ではありません。申請書と見積書に工事の中身は書いてあるので、 理由書に同じことを書いても情報は増えません。理由書が答えるべき問いは1つです。
この人は今、どの動作で、なぜ困っていて、この工事をすると、その動作がどう変わるのか。
裏を返すと、動作が1つも書かれていない理由書は、内容が正しくても返されます。「高齢のため危険」「転倒予防のため」は、動作ではなく感想です。 反対に、動作と数字が入っていれば、文章が上手でなくても通ります。
材料はすべて現地調査で手に入っています。書けないときは文章の問題ではなく、 現地で見ていない・測っていないことがほとんどです。現地調査で何を見て、何を測るのかで挙げた寸法と聞き取り項目が、そのまま理由書の材料になります。
様式には2つの型がある。書く材料は同じ
市町村から渡される理由書は、大きく2つの型に分かれます。どちらが来ても書く材料は同じで、 並べ方が違うだけです。最初に自分の保険者がどちらかを確かめておきます。
| 型 | 様式の形 | 書き方の勘所 |
|---|---|---|
| 表形式 | 「活動(排泄・入浴・外出など)」ごとに、①改善しようとしている生活動作 ②具体的な困難な状況 ③改修目的と改修の方針 ④改修項目 を横に並べる | 1行が1つの活動。行の中で①→④が筋として繋がっているかを見られる。行をまたいで話を混ぜない |
| 自由記述 | 「①身体状況及び介護状況」「②住宅の状況及び困難な生活動作」「③住宅改修の目的及び効果」の3つの枠に文章で書く | 枠が大きいぶん、抽象的に書いてしまいやすい。表形式の4項目を頭の中で作ってから文章に直すと外さない |
表形式には「福祉用具の利用状況と住宅改修後の想定」を書く欄が付いていることが多く、 自由記述型ではその欄が無いぶん、②か③の文章の中に自分で織り込む必要があります (これを落とすのが返戻のよくある原因です。後述します)。
書き始める前に、材料を並べる
いきなり枠を埋めようとすると手が止まります。先に材料を表にして、それから文章にします。 材料は次の4つで、どれも現地調査とアセスメントから取れます。
| 材料 | どこから取るか | 理由書のどこに入るか |
|---|---|---|
| 身体の状態(疾患・麻痺側・可動域・支持性) | 主治医意見書、退院時サマリ、本人・家族への聞き取り | ①身体状況及び介護状況 |
| 移動の手段(独歩・杖・歩行器・車いす・介助) | 現地で実際に動いてもらった観察 | ①身体状況/②困難な生活動作 |
| 家の実測値(段差・高さ・幅・下地) | 現地調査のメジャー実測 | ②困難な生活動作(数字はここに入れる) |
| 介護状況(同居者・介助者の有無と能力・独居か) | 聞き取り | ①介護状況/③効果(誰の負担が減るか) |
この4つが揃うと、②の文章は「(身体の状態)なので、(場所と数字)で、(動作)ができない」の形に自動的にはまります。埋まらない箇所があれば、それは現地でまだ見ていないところです。
同じ案件を、2通りで書いてみる
浴室に段差解消と手すりを入れる案件を例にします。まず、返される書き方です。
間違ったことは書いていません。それでも返されるのは、この文章から「なぜ手すりなのか」「なぜその位置なのか」が読み取れないからです。審査する側は現地を見ていないので、書かれていないことは無かったことになります。
同じ案件を、現地で見た事実だけで書き直したものが次です。
長くなったように見えますが、増えたのは数字と、動作の描写と、誰の負担が減るかの3つだけです。すべて現地調査のメモから写しています。
通る書き方と、返される書き方
上の2つの違いを項目ごとに並べると、直すべき場所がはっきりします。
| 観点 | 返される書き方 | 通る書き方 |
|---|---|---|
| 主語 | 「危険である」「困難である」 | 「右足を上げきれず、壁に手をついてまたいでいる」— 本人の動作が主語 |
| 場所 | 「浴室」「家の中」 | 「浴室出入口」「浴槽の側壁」— 工事する箇所と一致した特定 |
| 数字 | 数字が1つも無い | 段差120mm、浴槽の縁600mm、妻の身長148cm |
| 原因 | 「高齢のため」「加齢により」 | 「右下肢の支持性低下により足が上がらない」— 身体の状態と動作が繋がっている |
| 頻度・事実 | 「転倒の危険がある」 | 「直近3か月で尻もちが2回」— 起きた事実を書く |
| 効果 | 「安全に入浴できる」 | 「上肢で支持でき、片足立ちの時間が短くなる」— 動作がどう変わるか |
| 介助者 | 触れていない | 「妻の見守りを要している」— 誰の負担がどう減るか |
| 福祉用具 | 触れていない | 「浴槽用手すりは縁の厚みが合わず装着できない」— 検討したうえで足りないと書く |
迷ったら、書いた文章を、現地を見ていない同僚に読ませて、その場の絵が描けるかを確かめます。描けなければ、審査する人にも描けません。
数字は、この4種類を入れる
数字を入れると強くなるのは、それが「この家でなければならない理由」になるからです。 全部を書く必要はなく、その工事に効く数字だけを選びます。
| 工事 | 書き込む数値 | なぜその数字が効くか |
|---|---|---|
| 段差解消(出入口・上がり框・敷居) | 段差の高さ(mm)、またぐ側の足 | 5mm程度でもすり足の人はつまずく。高さで工法(すのこ・スロープ・敷居撤去)が決まる |
| 手すり | 取り付け高さと根拠(大転子の高さ)、設置長さ、下地の有無 | 「750mm」は本人の大転子の高さに合わせた結果だと分かる |
| 浴室 | 浴槽の縁の高さ(洗い場の床から)、浴槽の深さ | またげるかどうかの判断はこの実測値で決まる。カタログ値ではない |
| 扉の取替え | 現在の開口の有効幅、建具の種類、必要な幅 | 車いすなら有効750mm以上ほしい、といった判断根拠になる |
| 床材の変更 | 現在の床材、濡れる範囲、滑った事実 | 「滑りやすい」だけでは対象と認められにくい |
| 共通 | 本人の身長・移動手段、介助者の有無 | 寸法を本人に合わせた根拠になる |
手すりの高さの決め方と根拠は手すりの取り付け位置の決め方にまとめています。理由書に高さを書くときは、そこで決めた根拠をそのまま1行添えます。
「福祉用具では足りない理由」を必ず1行入れる
審査する側が最初に考えるのは「これ、工事をしなくても福祉用具で足りるのでは」です。ここに先回りして答えておくと、照会そのものが来なくなります。
| 工事 | 先に検討される福祉用具 | 工事が要る理由の書き方(例) |
|---|---|---|
| 手すりの設置 | 据置き型手すり・突っ張り型手すり | 「立ち上がりの際に横方向へ力が掛かり、据置き型では本体が動く。壁固定が必要」 |
| 浴室の手すり | 浴槽用手すり(浴槽の縁に挟むもの) | 「浴槽の縁の厚みが合わず装着できない」「またぎの始点が浴槽の外側にあり、届かない」 |
| 段差の解消 | スロープ(据置き)・浴室内すのこ | 「有効幅が狭く、置き型スロープでは所定の勾配が取れない」「置くだけのすのこは動作のたびにずれる」 |
| 床材の変更 | 滑り止めマット | 「洗い場全面が濡れるため、部分的なマットでは動線を覆えない」 |
逆に、置くだけで足りるなら工事をしないほうが早く、生涯20万円の枠も温存できます。理由書を書きながら「これは福祉用具でいけるのでは」と気づいたら、 その場で方針を戻すほうが結果的に早く終わります。
改修項目と理由が、1対1で対応しているか
意外と多い返戻が、見積の工事箇所と、理由書に書かれた理由の数が合っていないというものです。手すりを4か所に付ける見積なのに、理由書には浴室のことしか書かれていない、 という形で起こります。
- 見積・申請書の工事箇所を書き出し、1つずつに理由が対応しているか指で追って確かめる
- 表形式の様式なら、④改修項目の欄に書いた項目が、そのまま見積の箇所と一致しているか見る
- 数が多いときは、理由書の②③でも箇所ごとに改行して並べる(文章を1つに繋げない)
- 逆に、理由書にあって見積に無い箇所も直す。「書いたのにやらない」も照会の対象になる
廊下の手すりのように「通過するだけ」の箇所は理由が薄くなりがちですが、 そこでも「トイレまでの動線が連続しておらず、途中で壁を伝っている」と、 動線として説明すれば筋が通ります。
返戻・照会の典型パターン
| 言われること | 実際に書かれていたこと | 直し方 |
|---|---|---|
| 「必要性が読み取れません」 | 「高齢で転倒の危険がある」だけ | 動作・場所・数字の3つを入れる。起きた事実(転倒歴)を書く |
| 「福祉用具では対応できませんか」 | 福祉用具に一切触れていない | 検討した用具名と、それでは足りない理由を1行入れる |
| 「工事箇所と理由が一致しません」 | 見積4箇所・理由書1箇所 | 箇所ごとに理由を分けて書く |
| 「写真と記載が違います」 | 理由書は「引き戸に取替え」、写真は開き戸のまま別の場所 | 写真の撮影箇所と番号を、工事箇所の番号に揃える |
| 「作成者の資格が確認できません」 | 資格欄のチェックが空、または資格証の写しが未添付 | 保険者の要件を先に確認する。PT・OT等は資格証の写しが要ることが多い |
| 「現地確認日が工事の後になっています」 | 日付の書き間違い、または実際に着工後に書いた | 現地確認日は必ず着工前の日付。事前申請の順番そのものが問われる |
| 「本人の状況と改修内容が合いません」 | 車いす利用なのに開口幅に触れず手すりだけ | 身体状況から必要な寸法(有効幅など)を明記する |
作成者・署名・日付でつまずかない
中身が良くても、ここで止まることがあります。書き始める前に確認しておく事務の要点です。
- 誰が書けるか — 介護支援専門員、地域包括支援センターの職員のほか、PT・OT・福祉住環境コーディネーター2級以上を 認める保険者もあります。認める範囲と添付書類は市町村で分かれます
- 担当ケアマネの署名 — ケアマネ以外が作成した場合、担当の介護支援専門員が内容を確認して署名する運用の保険者があります。 自署を求められることが多く、押印だけでは足りないことがあります
- 現地確認日 — 実際に家を見た日を書きます。着工日より後の日付はそれだけで照会になります
- 入院・入所中の場合 — 「入院(入所)中」に印を付け、退院予定日を書きます。退院前の改修は認められる一方、 退院しなかった場合の扱いが保険者で違うので、事前に確認しておきます
- PT・OTの現地確認の有無 — 欄がある様式では、無記入のまま出さない。同行してもらった場合は担当者名まで書きます
出す前に、この順で読み返す
- 動作が書かれているか(「〜が困難」ではなく「〜のとき、〜ができない」になっているか)
- 場所が、工事する箇所と同じ言葉で特定されているか
- 実測値が入っているか。その数字が、選んだ工法の根拠になっているか
- 福祉用具を検討したことと、足りない理由が1行あるか
- 見積の工事箇所の数と、理由が1対1で対応しているか
- 効果が「安全になる」で終わらず、動作の変化で書かれているか
- 誰の介助負担が、どう減るのかが書かれているか
- 現地確認日・資格欄・署名が埋まっているか。着工日より前の日付か
- 現地を知らない人が読んで、その場の絵が描けるか
この9項目のうち、返戻の大半は最初の5つで防げます。理由書は文章の巧拙で通るものではなく、現地で見た事実を、抜けなく書き写せているかで決まります。書けないところが出てきたら、文章を捻るのではなく、もう一度現地を確かめるのが早道です。
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